野生動物

アライグマの生態|繁殖・行動圏(MCP・カーネル法)・食性・農作物被害

 アライグマ(Procyon lotto)は食肉目アライグマ科アライグマ属の哺乳類です。1977年に放映が開始したテレビアニメ『ラスカル』の影響でペットブームとなりましたが、放逐や逸出によって野生化しました。生態系や農林水産業への被害へ甚大な影響を及ぼすため、特定外来生物に指定されています。

特徴

 アライグマ(Procyon lotto)は食肉目アライグマ科アライグマ属の哺乳類です。日本で捕獲されたアライグマの頭胴長は540~720mm、尾長は160~280mm、体重は5~10kgであり、オスはメスよりもやや大きい。栄養状態の良い個体の体重は10kgを超える場合もあります。また、寺社仏閣などの屋根裏などへ侵入し、糞害などの被害を発生させる事例もあります(矢部ほか,2007)。

体サイズ

頭胴長・尾長

性別頭胴長尾長
オス555〜660mm200〜280mm
メス540〜720mm160〜280mm

体重

性別体重
オス4.9〜9.8kg
メス4.9〜8.6kg

アライグマの計測値は以下の論文を参照し作成

  • 倉島治 & 庭瀬奈穂美. (1998).
  • 近藤慧. (2015).
  • 小宮将大, 菅野泰弘, 澤田誠吾, 金森弘樹. (2019).
  • 山﨑晃司 & 佐伯緑. (2012).

頭胴長

 アライグマの頭胴長は540~720mm、オスの頭胴長の中央値が630mm、メスの頭胴長の中央値が595mmであり、雌雄の頭胴長はほぼ同じくらいの大きさです。

オスメス
最大値660mm720mm
中央値630mm595mm
最小値555mm540mm

尾長

 アライグマの尾長は160~280mm、オスの尾長の中央値が270mm、メスの全長の中央値が210mmであり、雌雄の尾長はほぼ同じくらいの長さです。

オスメス
最大値280mm280mm
中央値270mm210mm
最小値200mm160mm

体重

 アライグマの体重は4.9~9.8kg、オスの体重の中央値が8.4kg、メスの体重の中央値が5.9kgで、オスの方がやや大きい。

オスメス
最大値9.8kg8.6kg
中央値8.4kg5.9kg
最小値4.9kg4.9kg

分布・移入経緯

 アライグマ(Procyon lotor)は、北アメリカ原産で、1977年に放映が開始したテレビアニメ『ラスカル』の影響でペットブームとなり輸入されました。しかし、気性が荒く身体能力が高いため、飼い主の野外への放逐や脱走したものが野生化しました。日本には天敵がいなく、繁殖能力が強いことから各地で分布を拡大しています。

 生態系や農林水産業への被害へ甚大な影響を及ぼすため、特定外来生物に指定されており、輸入・飼育・放逐が禁止されています。

繁殖生態

 アライグマは高い繁殖力を持っており,1歳の妊娠率は77.8%,成獣では約90%と高い妊娠率です。アライグマの交尾期は2〜3月に迎え,出産時期は2〜10月(ピークは3〜4月)に出産します。鎌倉市の事例では,出産時期は2〜5月と6〜10月の二極性があると報告されています。アライグマは1回の出産で1〜7頭(平均3〜5頭)の子を出産します。

交尾時期・出産時期

交尾時期2〜3月
出産時期2~10月

成獣の妊娠率・一腹産子数

地域妊娠率一腹産子数論文
北海道
(成獣)
96%平均 3.90頭
(1〜7頭)
Asano et al., (2003).
兵庫県
(成獣)
90.1%3.79 ± 0.95頭
(1~7頭)
横山真弓 & 木下裕美子. (2009).
島根県
(2~5歳)
87.5%平均 5.30頭
(3~7頭)
金森弘樹ほか, (2012).

交尾時期・出産時期

 アライグマは2〜3月に交尾期を迎え,多くは3〜5月に出産します。鎌倉市の事例では,出産時期は2〜5月と6〜10月の二極性があると報告されています。

地域交尾時期出産時期論文
北海道2〜3月3〜5月Asano et al., (2003).
鎌倉市2~10月
※二極性
(2~5月)
(6~10月)
加藤卓也. (2012).
兵庫県4月中旬にピーク横山真弓 & 木下裕美子. (2009).

妊娠率・一腹産子数

 アライグマの妊娠率は地域によって異なりますが,1歳では66〜77.8%,成獣では87.5〜96%と高い妊娠率です。1回の出産では,1〜7頭(平均 3〜4頭)の子を出産します。

地域妊娠率一腹産子数論文
北海道
(1歳)
66%平均 3.60頭Asano et al., (2003).
北海道
(成獣)
96%平均 3.90頭
(1〜7頭)
Asano et al., (2003).
兵庫県
(亜成獣)
53.3%3.00 ± 0.92頭
(1~4頭)
横山真弓 & 木下裕美子. (2009).
兵庫県
(成獣)
90.1%3.79 ± 0.95頭
(1~7頭)
横山真弓 & 木下裕美子. (2009).
島根県
(1歳)
77.8%平均 4.00頭
(3~5頭)
金森弘樹ほか, (2012).
島根県
(2~5歳)
87.5%平均 5.30頭
(3~7頭)
金森弘樹ほか, (2012).

食性

 アライグマは雑食性であるため、植物の果実や種子・両生類・昆虫・甲殻類・魚類など様々なものを採食します。鳥類や哺乳類を採食する事例も報告されています。トウキョウサンショウウオなどの絶滅危惧種を採食することや、タヌキやアナグマなどの在来哺乳類とえさ資源が競合することなど、在来生態系への影響が懸念されています。

アライグマの採食物リスト

植物

種名論文
エノキ高槻ほか, 2014.
カキノキ高槻ほか, 2014.
矢部・渋谷, 2007.
カラスノエンドウ横山・木下, 2009.
ギンナン矢部・渋谷, 2007.
クサイチゴ横山・木下, 2009.
グミ横山・木下, 2009.
ケンボナシ高槻ほか, 2014.
トウガラシ矢部・渋谷, 2007.
ハコベ属高槻ほか, 2014.
ヒメコウゾ高槻ほか, 2014.
ブドウ属高槻ほか, 2014.
マタタビ属高槻ほか, 2014.
マルバグルミ高槻ほか, 2014.
ムクノキ高槻ほか, 2014.
ヤマブドウ高槻ほか, 2014.
ヤマモモ横山・木下, 2009.

両生類

種名論文
エゾアカガエル堀・植木, 2013.
エゾサンショウウオ堀・植木, 2013.
シュレーゲルアオガエル伊原ほか, 2014.
セトウチサンショウウオ栗山・沼田, 2020.
トウキョウサンショウウオ金田ほか, 2012.
トノサマガエル横山・木下, 2009.
伊原ほか, 2014.
ニホンアカガエル栗山・沼田, 2020.
ニホンアマガエル横山・木下, 2009.
伊原ほか, 2014.
ヌマガエル横山・木下, 2009.
モリアオガエル伊原ほか, 2014.
カエル(種不明)小宮ほか, 2019.

昆虫類

種名論文
アカネトンボ(ヤゴ)横山・木下, 2009.
オオオサムシ横山・木下, 2009.
オニヤンマ(ヤゴ)横山・木下, 2009.
キンバエ横山・木下, 2009.
ヤマトコロスジヘビトンボ(ヤゴ)横山・木下, 2009.
甲虫類(種不明)矢部・渋谷, 2007.
ヤゴ(種不明)小宮ほか, 2019.

節足動物

種名論文
ダニ横山・木下, 2009.

甲殻類

種名論文
サワガニ横山・木下, 2009.
金田ほか, 2012.
小宮ほか, 2019.
スジエビ横山・木下, 2009.
種不明矢部・渋谷, 2007.
高槻ほか, 2014.

鳥類

種名論文
トラツグミ加藤ほか, 2016.
種不明矢部・渋谷, 2007.
高槻ほか, 2014.
小宮ほか, 2019.

哺乳類

種名論文
種不明高槻ほか, 2014.

アライグマによる農作物被害

 アライグマは雑食性であるため穀物類や果菜類・葉菜類・根菜類・果樹などの農作物に被害を与えます。特にトウモロコシやスイカ・カキ・ブドウなどには多くの被害が発生しています。また、観賞用のキンギョやコイなどにも被害が発生する場合があります。

 アライグマの農作物被害額は全国で約3億5千万円発生しており、主に野菜類や果樹に多くの被害が発生しています。

被害作物リスト

穀物類

種名論文
イネ(踏み倒し)金森ほか, 2012.
トウモロコシ浅田, 2012.
栗山・高木, 2020.
田畑ほか, 2006.
※ 家畜飼料
(トウモロコシ等を含む)
金森ほか, 2012.

果菜類 〜果実を食べる野菜〜

種名論文
イチゴ浅田, 2012.
栗山・高木, 2020.
エダマメ栗山・高木, 2020.
カボチャ栗山・高木, 2020.
キュウリ栗山・高木, 2020.
サヤエンドウ栗山・高木, 2020.
スイカ浅田, 2012.
栗山・高木, 2020.
トマト浅田, 2012.
ナス浅田, 2012.
ピーマン栗山・高木, 2020.
メロン浅田, 2012.
ラッカセイ浅田, 2012.

葉菜類 〜葉や茎を食べる野菜〜

種名論文
ハクサイ浅田, 2012.

根菜類 〜根の部分を食べる野菜〜

種名論文
サツマイモ浅田, 2012.
栗山・高木, 2020.
ジャガイモ栗山・高木, 2020.
ダイコン栗山・高木, 2020.

果樹

種名論文
イチジク栗山・高木, 2020.
カキ浅田, 2012.
金森ほか, 2012.
高槻ほか, 2014.
ナシ栗山・高木, 2020.
ビワ浅田, 2012.
栗山・高木, 2020.
ブドウ浅田, 2012.
金森ほか, 2012.
栗山・高木, 2020.
山﨑ほか, 2009.
プラム浅田, 2012.
ミカン浅田, 2012.
モモ栗山・高木, 2020.

その他

種名論文
キンギョ金森ほか, 2012.
コイ田畑ほか, 2006.

行動圏(MCP)

 アライグマの行動圏は環境によって大きく異なり、森林や郊外では広く、市街地では狭い傾向があります。また、オスはメスよりも広い行動圏を持つ傾向があります。オスの行動圏はメスよりも広く排他的であり、オスの行動圏には複数のメスの行動圏が含まれています。

地域環境オスメス論文
ポーランド
(Warta Mouth National Park)
森林60.51㎢
(N=1)
Bartoszewicz et al., 2008.
ポーランド
(Postomia River)
湿地19.44㎢
(N=1)
10.90㎢
(N=1)
Bartoszewicz et al., 2008.
恵庭市森林4.63㎢
(N=2)
3.02㎢
(N=5)
倉島,1998
ポーランド
(Kostzyn city)
郊外2.32㎢
(N=1)
10.50㎢
(N=1)
Bartoszewicz et al., 2008.
苫小牧
(TOEF)
森林2.47㎢
(N=4)
Suzuki et al., 2003
恵庭市郊外1.68㎢
(N=2)
0.90㎢
(N=2)
倉島,1998
野幌森林公園森林公園1.10㎢
(N=2)
1.26㎢
(N=2)
池田透ほか, 2001
鎌倉市市街地0.43㎢
(N=2)
0.54㎢
(N=2)
Ikeda et al., 2004

MCP

日本

オス
地域環境行動圏論文
恵庭市森林5.09㎢倉島,1998
恵庭市森林4.17㎢倉島,1998
恵庭市郊外1.84㎢倉島,1998
恵庭市郊外1.52㎢倉島,1998
野幌森林公園森林公園1.44㎢池田透ほか, 2001
野幌森林公園森林公園0.77㎢池田透ほか, 2001
鎌倉市市街地0.47㎢Ikeda et al., 2004
鎌倉市市街地0.40㎢Ikeda et al., 2004

メス
地域環境行動圏論文
恵庭市森林6.48㎢倉島,1998
苫小牧
(TOEF)
森林3.73㎢Suzuki et al., 2003
苫小牧
(TOEF)
森林3.34㎢Suzuki et al., 2003
恵庭市森林3.10㎢倉島,1998
恵庭市森林2.78㎢倉島,1998
恵庭市森林2.07㎢倉島,1998
苫小牧
(TOEF)
森林1.41㎢Suzuki et al., 2003
苫小牧
(TOEF)
森林1.40㎢Suzuki et al., 2003
野幌森林公園森林公園1.38㎢池田透ほか, 2001
野幌森林公園森林公園1.14㎢池田透ほか, 2001
恵庭市郊外1.00㎢倉島,1998
恵庭市郊外0.81㎢倉島,1998
鎌倉市市街地0.74㎢Ikeda et al., 2004
恵庭市森林0.70㎢倉島,1998
鎌倉市市街地0.35㎢Ikeda et al., 2004
  • TOEF:Tomakomai Experimental Forest of Hokkaido University

ポーランド

オス
地域環境行動圏論文
Warta Mouth National Park森林60.51㎢Bartoszewicz et al., 2008.
Postomia River湿地19.44㎢Bartoszewicz et al., 2008.
Kostzyn city
(suburbun)
郊外2.32㎢Bartoszewicz et al., 2008.

メス
地域環境行動圏論文
Postomia River湿地10.90㎢Bartoszewicz et al., 2008.
Kostzyn city
(suburbun)
郊外10.50㎢Bartoszewicz et al., 2008.

最外殻(MCP)法のイメージ図

引用文献

  • Asano, M., Matoba, Y., Ikeda, T., Suzuki, M., Asakawa, M. & Ohtaishi, N. (2003). Reproductive characteristics of the feral raccoon (Procyon lotor) in Hokkaido, Japan. Journal of veterinary medical science65(3), 369-373.
  • Bartoszewicz, M., Okarma, H., Zalewski, A., & Szczęsna, J. (2008). Ecology of the raccoon (Procyon lotor) from western Poland. In Annales Zoologici Fennici (Vol. 45, No. 4, pp. 291-298). Finnish Zoological and Botanical Publishing Board.
  • 伊原禎雄, 宇根有美, 大沼学, 佐藤洋司, & 新国勇. (2014). 福島県只見町で発生したモリアオガエルの大量死について. 野生生物と社会2(1), 37-41.
  • Ikeda, T., Asano, M., Matoba, Y., & Abe, G. (2004). Present status of invasive alien raccoon and its impact in Japan. Global environmental research8(2), 125-131.
  • 池田透, 遠藤将史 & 村野紀雄. (2001). 野幌森林公園地域におけるアライグマの行動圏. 酪農学園大学紀要25(2), 311-319.
  • 加藤卓也, 掛下尚一郎, 山﨑文晶, & 杉浦奈都子. (2016). 横浜市の野生化アライグマ Procyon lotor の胃内容におけるトラツグミ Zoothera dauma の検出. BINOS, 23, 77-79.
  • 金森弘樹, 竹下幸広 & 澤田誠吾. (2012). 島根県におけるアライグマの生息実態調査 (1). 島根県中山間地域研究センター研究報告, (8), 51-62.
  • 金田正人, 山﨑文晶 & 神山奈由子. (2012). 外来生物アライグマの消化管内容物として見つかったトウキョウサンショウウオ卵嚢. 爬虫両棲類学会報2012(2), 107-109.
  • 倉島治 & 庭瀬奈穂美. (1998). 北海道恵庭市に帰化したアライグマ (Procyon lotor) の行動圏とその空間配置. 哺乳類科学38(1), 9-22.
  • 栗山武夫, 沼田寛生. (2020). 特集「兵庫県における外来哺乳類の現状と課題」第3章 兵庫県神戸市におけるニホンアカガエル繁殖期に出没・カエルを捕食したアライグマの記録. 兵庫ワイルドライフモノグラフ 12: 35-48.
  • 近藤慧. (2015). 那須塩原市で回収されたアライグマについて. 那須野が原博物館紀要, 11(1), 41-42.
  • 堀繁久, & 植木. (2013). 野幌森林公園で確認されたアライグマ (Procyon lotor) による在来両生類の捕食. 北海道爬虫両棲類研究報告1, 1-10.
  • 小宮将大, 菅野泰弘, 澤田誠吾, 金森弘樹. (2019). 島根県におけるアライグマの生息実態(Ⅱ)-2014~2017年度の生息実態,錯誤捕獲防止わなの開発,行動追跡調査およびアライグマ探索犬の導入による効果-.島根県中山間地域研究センター研究報告, 15: 1-8.
  • Suzuki, T., Aoi, T., & Maekawa, K. (2003). Spacing pattern of introduced female raccoons (Procyon lotor) in Hokkaido, Japan. Mammal Study28(2), 121-128.
  • 高槻成紀, 久保薗昌彦 & 南正人. (2014). 横浜市で捕獲されたアライグマの食性分析例. 保全生態学研究, 19(1), 87-93.
  • 山﨑晃司 & 佐伯緑. (2012). 携帯電話 GPS 端末を利用したアライグマの行動追跡の実用性について. 哺乳類科学, 52(1), 47-54.
  • 横山真弓 & 木下裕美子. (2009). 捕獲個体の分析.兵庫ワイルドライフモノグラム.1,19-28.
  • 矢部辰男 & 渋谷良文. (2007). 鎌倉市内の一寺院におけるアライグマの侵入防止工事と糞内容物分析. ペストロジー, 22(1), 13-14.
  • 横山真弓 & 木下裕美子 (2009). 捕獲個体の分析~年齢・繁殖・食性~.「兵庫県におけるアライグマの現状」. 兵庫ワイルドライフモノグラフ, 1:19-28.