野生動物

イノシシ(Sus scrofa)の生態|繁殖・食性・農作物被害

 イノシシ(Sus scrofa)は偶蹄目イノシシ科の哺乳類で、西日本を中心とした本州・四国・九州・八重山諸島などの島嶼部に分布しています。人間の土地利用の変化(耕作地の減少など)やオオカミなどの捕食者の欠如,狩猟者の減少,地球温暖化による積雪量の減少などによって分布が拡大傾向にあります。

基本的な生態

 イノシシは偶蹄目イノシシ科の哺乳類で、西日本を中心とした本州・四国・九州・八重山諸島などの島嶼部に生息しています。人間の土地利用の変化(耕作地の減少など)やオオカミなどの捕食者の欠如・狩猟者の減少・地球温暖化による積雪量の減少等によって分布が拡大傾向です。瀬戸内海などの海域が狭い場所では泳ぐ姿も目撃されていることから、海を渡って分布拡大していることが示唆されています(武山、2016)。

基本データ
頭胴長オス:106±22.9cm
メス:99.2±19.49cm
 (安倍,1986)
尾長オス:13.6±3.27cm
メス:12.6±2.93cm
 (安倍,1986)

繁殖生態

 イノシシは高い繁殖能力を持っており,1歳で多くの個体が妊娠(84.2%)し、2歳以上ではほとんどの個体が妊娠(96.1%)します。0歳でも8.8%の個体の妊娠が確認されています(辻&横山,2014)。

 一腹産子数は4.07±1.45頭であり、兵庫県では最大7頭の胎児が確認されています(辻&横山,2014)。

基本データ
妊娠率
0歳 8.8%
1歳 84.2%
2歳 96.1%
一腹胎児数4.07±1.45頭
(1〜7頭)

食性

 イノシシは植物を中心とした雑食性で、食性には季節的な変化が見られます。春季には植物の葉(単子葉・双子葉)やタケ類を多く採食し、夏季には昆虫類や両生類(カエル)・ミミズなどの動物質の割合が増加します。秋季〜冬季にはコナラなどの堅果類(ドングリ)や植物の地下茎などを多く採食します。

採食物リスト

植物

種名論文
アザミ 朝日, 1975.
アケビ 木場ほか,2009.
アベマキ 木場ほか,2009.
アラカシ 木場ほか,2009.
カキ(種子) 小寺ほか,2013.
カラスウリ 木場ほか,2009.
クスダマツメクサ 三谷ほか,2001.
クズ(塊茎) 小寺ほか,2013.
中村ほか,2015.
コナラ 木場ほか,2009.
スダジイ 木場ほか,2009.
シロツメクサ(種子) 三谷ほか,2001.
チガヤ 朝日, 1975.
チシマザサ 中村ほか,2015.
ハゼノキ 木場ほか,2009.
ヒサカキ(葉) 朝日, 1975.
小寺ほか,2013.
フジ 朝日, 1975.
ナシ(種子) 小寺ほか,2013.
ネザサ 小寺ほか,2013.
ムベ 木場ほか,2009.
ミゾソバ 朝日, 1975.
ミヤコグサ 三谷ほか,2001.
ヤマブドウ 朝日, 1975.
イネ科 小寺ほか,2013.
木場ほか,2009.
カヤツリグサ科 小寺ほか,2013.
キイチゴ属 小寺ほか,2013.
タデ科 小寺ほか,2013.
ツブラジイ(種子) 木場ほか,2009.
マメ科 小寺ほか,2013.

昆虫類

種名論文
ハナムグリ 朝日, 1975.
オサムシ科 木場ほか,2009.
キバチ科 朝日, 1975.
クワガタムシ科(幼虫) 木場ほか,2009.
コガネムシ科(幼虫) 朝日, 1975.
木場ほか,2009.
ゴミムシ類 木場ほか,2009.
セミ科 朝日, 1975.
チヨウバエ科 朝日, 1975.
ハバチ科 朝日, 1975.
ハネカクシ科 朝日, 1975.

魚類

種名論文
種不明木場ほか,2009.

両生類

種名属名
アマガエル 朝日, 1975.
小寺ほか,2013.
モリアオガエル 朝日, 1975.
アオガエル属 小寺ほか,2013.

爬虫類

種名論文
ヘビ(種不明) 木場ほか,2009.

哺乳類

種名論文
ヒミズモグラ 朝日, 1975.
種不明 木場ほか,2009.

貝類

種名論文
マルタニシ 朝日, 1975.

その他動物

種名属名
ダンゴムシ 木場ほか,2009.
ミミズ 朝日, 1975.
小寺ほか,2013.
中村ほか,2015.
ムカデ 朝日, 1975.
小寺ほか,2013.
木場ほか,2009.
ダニ類(種不明) 小寺ほか,2013.
ヤスデ類 木場ほか,2009.

生息地選択

 常緑広葉樹林・落葉広葉樹林・里山・平野部などに広く分布し,広葉樹林や水田放棄地・竹林などを選択的に利用します(小寺ほか,2001)。

イノシシによる農作物被害

 イノシシによる農作物被害はイネ・果樹・野菜などで発生しており、幅広い品目で被害が発生しています。中山間地域などの被害が激しい地域では農業の継続すら危ぶまれる状況となっています。

 近年のイノシシの農作物被害額(全国)は減少傾向ですが、令和元年度はイネ24億円、果樹9億5千万円、5億9千万円、合計46億円もの被害が発生しています(農林水産省 農作物被害状況)。

 令和元年度のイノシシによる被害額は広島県・福岡県・鹿児島県・愛媛県・熊本県など,西日本地域で多額の被害額が発生しています(農林水産省 農作物被害状況)。

順位都道府県被害額
1広島県3億5443万円
2福岡県2億9394万円
3鹿児島県2億2781万円
4愛媛県2億2435万円
5熊本県2億1765万円

被害作物リスト

穀物類

種名論文
アズキ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
イネ足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982).
神崎伸夫, 見宮歩 & 丸山直樹. (2003).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
小寺祐二, 神崎伸夫, 石川尚人 & 皆川晶子. (2013).
ゴマ竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
ソバ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
ダイズ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
トウモロコシ神崎伸夫, 見宮歩 & 丸山直樹. (2003).
木場有紀, 坂口実香, 村岡里香, 小櫃剛人 & 谷田創. (2009).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ムギ兵庫県森林動物研究センター. (2010).

果菜類 〜果実を食べる野菜〜

種名論文
イチゴ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
エダマメ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
カボチャ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
キュウリ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
サヤエンドウ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
スイカ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
トマト兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ピーマン兵庫県森林動物研究センター. (2010).

葉菜類 〜葉や茎を食べる野菜〜

種名論文
キャベツ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ハクサイ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ブロッコリー兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ホウレンソウ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
タケノコ足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982).
神崎伸夫 & 金子雄二. (2001).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
ナス兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ネギ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
レタス兵庫県森林動物研究センター. (2010).

根菜類 〜根の部分を食べる野菜〜

種名論文
カブ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
コンニャク足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982).
サツマイモ神崎伸夫 & 金子雄二. (2001).
神崎伸夫, 見宮歩 & 丸山直樹. (2003).
木場有紀, 坂口実香, 村岡里香, 小櫃剛人 & 谷田創. (2009).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
サトイモ足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
ジャガイモ足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982).
神崎伸夫 & 金子雄二. (2001).
神崎伸夫, 見宮歩 & 丸山直樹. (2003).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
ダイコン兵庫県森林動物研究センター. (2010).
タマネギ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ニンジン兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ニンニク兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ミョウガ竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
ユリネ竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
ヤマイモ足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982).
神崎伸夫 & 金子雄二. (2001).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).

果樹

種名論文
ウメ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
法眼利幸, 山本浩之 & 森口幸宣. (2014).
ウンシュウミカン法眼利幸, 山本浩之 & 森口幸宣. (2014).
カキ足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982).
木場有紀, 坂口実香, 村岡里香, 小櫃剛人 & 谷田創. (2009).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
小寺祐二, 神崎伸夫, 石川尚人 & 皆川晶子. (2013).
クリ足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982).
神崎伸夫 & 金子雄二. (2001).
兵庫県森林動物研究センター. (2010).
スモモ上田弘則 & 姜兆文. (2004).
ナシ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013).
ビワ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
ブドウ兵庫県森林動物研究センター. (2010).
柑橘類木場有紀, 坂口実香, 村岡里香, 小櫃剛人 & 谷田創. (2009).

その他

種名論文
イタリアンライグラス
(牧草)
上田弘則. (2019).

引用文献

  • 安部みき子. (1986). ニホンイノシシの外部計測値. 哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan11(3-4), 147-154.
  • 朝日稔. (1975). 狩猟期におけるイノシシの胃内容. 哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan6(3), 115-120.
  • 足立年一, 久保清 & 山下優勝. (1982). 兵庫県におけるイノシシの被害実態と防止対策. 関西病虫害研究会報24, 5-10.
  • 兵庫県森林動物研究センター. (2010). 農業集落アンケートからみるニホンジカ・イノシシの被害と対策の現状. 兵庫ワイルドライフモノグラフ. 2: 29-35.
  • 法眼利幸, 山本浩之 & 森口幸宣. (2014). 和歌山県果樹栽培地域におけるイノシシの摂食行動調査とカンキツ果実被害について. 和歌山県農林水産試験研究機関研究報告= Bulletin of the Wakayama Prefectural Experiment Stations of Agriculture, Forestry and Fisheries, (2), 75-94.
  • 神崎伸夫, 見宮歩 & 丸山直樹. (2003). 山梨県におけるイノシシ, サルによる農作物被害の実態と農家の意識. 野生生物保護8(1), 1-9.
  • 神崎伸夫 & 金子雄二. (2001). 神奈川県藤野町におけるニホンイノシシによる農作物被害と被害対策の現状. ワイルドライフ・フォーラム6(4), 155-160.
  • 小寺祐二, 神崎伸夫, 金子雄司, & 常田邦彦. (2001). 島根県石見地方におけるニホンイノシシの環境選択. 野生生物保護6(2), 119-129.
  • 小寺祐二, 神崎伸夫, 石川尚人, & 皆川晶子. (2013). 島根県石見地方におけるイノシシ (Sus scrofa) の食性. 哺乳類科学53(2), 279-287.
  • 木場有紀, 坂口実香, 村岡里香, 小櫃剛人, & 谷田創. (2009). 広島県呉市上蒲刈島におけるイノシシの食性. 哺乳類科学49(2), 207-215.
  • 三谷雅純, 横山真弓 & 岸本真弓. (2001). 痕跡調査と糞分析から見た果実結実期 (9 月, 10 月) の六甲山における哺乳類の空間分布と採食. Hito to shizen12.
  • 武山絵美. (2016). 瀬戸内海における海を越えたイノシシの生息拡大プロセス. 農村計画学会誌, 35(1), 33-42.
  • 中村夢奈, 小城伸晃, 大山研二. (2015). 山形県西川町におけるイノシシ Sus scrofa leucomystax の目撃事例と冬期の食性. 寒河江川流域自然史研究. 9:1-5.
  • 辻知香, & 横山真弓. (2014). 兵庫県におけるニホンイノシシの基本的繁殖特性.
  • 上田弘則 & 姜兆文. (2004). 山梨県におけるイノシシの果樹園· 放棄果樹園の利用. 哺乳類科学44(1), 25-33.
  • 上田弘則. (2019). イノシシ (Sus scrofa) による牧草地被害の実態とその対策. 日本草地学会誌65(1), 51-54.
  • 竹下幸広, 菅野泰弘, 金森弘樹, 澤田誠吾. (2013). 島根県におけるイノシシの生息実態調査(Ⅲ). – 第Ⅰ期(2002〜2006年度)と第Ⅱ期(2007〜2011年度)の「特定鳥獣保護管理計画」のモニタリング-. 島根県中山間地域研究センター研究報告, 9:31-41.